遅まきながら『ももへの手紙』を観てきました。

以下、感想など。

まず、何が素晴らしいと言って、各年齢、男女別の身体の描き分け。
主人公である小学六年生の少女「もも」の、年齢特有のプロポーションの表現は見事です。

さらに、中年や老人の、姿勢、筋肉の付き方などの差違による、服のしわの寄り方やたるみなどの表現も、非常に緻密に表現されていてリアルです。

しかし、それ以上に特筆すべきは、三十代半ばと思われる彼女の母親の表現。
この母親は、一見非常に若く描かれており、ぱっと見は二十代前半のようにも見えます。
が、よくよく見れば彼女こそ、この作品の作画における最大の成果ではないかというくらいに、素晴らしい身体表現で描かれていることが分かります。
(追記:すいません、いまパンフ見たら39才って書いてありました。まあももの年齢からして常識的には「そのくらいかな?」とも思ったんですが、あまりに 若く描かれていたので。ていうか先に確認しろって感じですね。すみません。とはいえ、それによって以下の感想が変わることはないので、そこはママで)

特に腰回り(なんかいやらしいな……)。
そして後半にぜんそくの発作で重ねた布団に身体をねじって上半身を預けているときの脇から腰にかけてのライン(やっぱりいやらしさが)。
お見事としか言いようがありませんでした。

そして、その見事な身体表現を支える、恐ろしく堅牢な作画。
これほどに全編にわたってデッサンの狂わない作品には、そうは出会えないのではないかと、自分の少ない鑑賞数を棚に上げて、感心したりため息をついたり。

もちろん、作画の表現としてデフォルメしたり崩したりといったことは、どんな作品にもあり、むしろそれなくしてアニメーションの魅力は語れないと思います。
ですが、残念なことに、そのような表現上の必要とは違うデッサンの狂いというものは、劇場作品に於いても決して少なくないと感じていました。

それが、この『ももへの手紙』には殆ど皆無と言っていいレベルで見受けられませんでした。
絵が狂わないというのは、こんなに気持ちのいいものだと再認識させられました。

そしてもうひとつ、作画上の特徴として感じたのは、「お化け」「妖怪」のたぐいで、メインの三体だけは、日本古来の風貌でありながら、関節などがしっかり描かれた西洋風のデザインがされているところです。
そして、ほかに出てくる多くのもののけたちは、日本人には馴染み深い、ジブリや水木しげる風のデザインになっています。
そうすることで、主人公の「もも」と絡むメインの三体と、その他の妖怪達との差別化がしっかりとされていて、画面を見れば何の説明もなくてもその関係性が一目で分かるようになっているのだと感じました。

ストーリー的には、非常にオーソドックスな作りで、ケレン味のようなものは殆ど感じられません。
が、決してそれが古くささには通じず、むしろ演出その他と相まって非常に新しいものを感じさせてくれるのはもうひとつの特徴と思います。

島の子供達、特に同い年の少年との交流が非常に淡く描かれているのも効果的だと思いました。
ここをドラマチックにしてしまったら、話がとっ散らかってしまったと思います。

物語の最後のあれは、あった方が良かったのかどうなのか、意見の分かれるところになりそうな気もします。
しかし、あれがあってこその『ももへの手紙』という作品だと思うので、あれはあれで、無ければ成り立たないのだと納得はできました。

そして最後に、背景について。
ロケハンが緻密に行われたのだろうということは、画面の隅々から伝わってきます。
そしてそれを、あくまでも「絵」として高め、いたずらに写真のようなリアルさに走らなかったことに、非常に好ましさを感じました。

親子で安心して楽しめますし、私のようなニワカオタクにとっても、作品そのものも、技術的なこともひっくるめて全てを味わえる素晴らしいアニメーションだと思います。